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「二十四の瞳」

2005年5月16日

 5月14日の共同通信によると、香川県小豆島の化粧品製造販売会社が、壷井栄の小説「二十四の瞳」を商標登録したことがわかり、地元の商工会や観光関係者は、「二十四の瞳」は島民の共有財産として反発、商標登録無効審判を請求する、と伝えた。商標登録した会社の社長によると、「二十四の瞳」は、奈良県内の男性が商標登録していたが、更新手続がされていなかったため、同社が8分野について出願、今年3月25日に登録された、とある。

 調査をしたところ、奈良県の男性が所有していた商標権は、更新手続をせずに権利が消滅したのではなく、取消審判を請求されることにより、商標権が消滅しており、今回商標登録をした会社が取消審判を請求していた。

 さて、「二十四の瞳」が壷井栄の小説の題名であることは周知の事実である。また、その舞台は、ご当地の観光産業の目玉の一つなのであろう。その意味では、島の共有財産を一個人が独占するのはけしからん、という心情は理解できる。

 しかし、一方では、商標というのは、商品やサービスを区別するための目印なのであるから、誰がどのようなものを商標として採択しても、原則的には自由である。実際、有名な小説のタイトルが商標登録されたものとして、夏目漱石の「坊ちゃん」、宮沢賢治の「注文の多い料理店」、現東京都知事の石原慎太郎の「太陽の季節」等がある。さらに、最近話題になった韓国ドラマのタイトル「冬のソナタ」も、既に商標登録されているのである。

 これらが本来登録されるべきではなかったというためには、単なる心情論だけでは足りない。参考になる事件として「母衣旗」事件がある(平成11年11月29日、東京高裁判決、平成10年(行ケ)第18号)。ある会社がこの「母衣旗」と「ほろはた」からなる商標を、加工食料品について登録したので、福島県の石川町が登録無効審判を請求したところ、請求不成立となったので、東京高裁に出訴し、最終的に登録が無効になった事例である。同町の「母旗」地区には、その地名「母旗」は、源義家の母衣と旗に由来し、これが転訛して「母旗」になったという伝承がある。同町が町興しの施策の一としてこれを共通の標章として選定採択し、地域周辺の業者等において、誰もが自己の商品に「母衣旗」の標章を使用できるとの認識を有する状態となっていたという前提の下に、個人が出願・登録した「母衣旗」は、町の経済の振興を図るという地方公共団体としての政策目的に基づく公益的な施策に便乗して、その遂行を阻害し、公共的利益を損なう結果に至ることを知りながら、該施策の中心に位置付けられている「母衣旗」名称による利益の独占を図る意図でしたとして、登録が無効になった。 

 なお、「冬のソナタ」については、出所の混同の可能性または不正な目的をもって出願・登録されたこと等を理由として、無効審判を請求することもできるであろう。

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