「ファミリーツーリズム」
2005年5月23日
5月21日の佐賀新聞は、佐賀県が出願した商標「ファミリーツーリズム」に対し、特許庁が拒絶理由を通知した、と報じた。
出願書類を閲覧したところ、指定役務は、第39類「主催旅行の実施,旅行者の案内,旅行に関する契約の代理・媒介又は取次ぎ」と第43類「宿泊施設の提供,宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ,飲食物の提供」であり、拒絶理由の一つは、その出願商標は、「家族を対象とした観光旅行」程度の意味合いを容易に看取させるから、これを指定役務中「家族を対象とした主催旅行の実施」「家族を対象とする宿泊施設の提供」等に使用した場合、単に役務の内容、質を表示するにすぎない、という3条1項3号及び4条1項16号を根拠とするものである。
この出願については、大きく2つ問題がある。
一つは、「ファミリーツーリズム」という言葉によって佐賀県が識別しようとする内容が商標法にいう役務であるか否かである。
佐賀県のホームページを拝見すると、親・子・孫の「三世代旅行」の適地づくりを推進していこうとする佐賀県独自の取組みを「ファミリーツーリズム」と称している。その取組み自体、役務とはいえない。まさか、佐賀県自ら旅行代理店業や旅館業を営むわけではあるまい。行政行為そのものは、商標制度には馴染まないのである。
とするならば、「ファミリーツーリズム」を商標登録する意味はどこにあるのか。これは、佐賀県の取組みである「ファミリーツーリズム」を県内の旅行業者、旅館業者等に使用させる場合である。つまり、旅行代理店が「ファミリーツーリズム」の下に、主催旅行を実施すれば、商標として機能するであろう。あるいは、佐賀県等が認可した旅館に「ファミリーツーリズム」のシールを貼る、一種の証明商標も考えられる。このような使用態様がなければ、県が商標登録しても意味がない。
もう一つの問題は、拒絶理由に対する考え方である。商標制度に詳しくない者にとっては、「ネイチャーツーリズム」や「ウェルカムツーリズム」がよくて、何故「ファミリーツーリズム」が駄目なのか、理解に苦しむところであろう。しかし、既に拒絶になった商標として「スローツーリズム」があるのである。これは、「ファミリーツーリズム」の出願時において、その事実は判明していたのである。もっとも今回の拒絶理由が妥当であるか否かは別問題であるが。意見書の提出期限は6月22日である。
商標は出願しただけでは事足らない。出願は、その商標が登録されるか否かの判断と表裏一体でなければならない。
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