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ろうか。この点についても、本異議決定は、歪曲した解釈をしているのである。
つまり、「取引に際し」を「その活動上」に、また「何人も」を「NPO法人等であれば」に置き換えているのである。
そもそも、独占適応性における公益性とは、商標法の目的に照らし、競業秩序の維持との関係から導き出されるものであって、如何に公益性が高い者であっても特定の者の利害から導き出されるものではない。蛇足ながら、この公益性をいうのであれば、商標法第47条の除斥期間についても、本来の公益性の見地から、商標法第3条については、適用を廃止すべきである。
思うに、本異議決定に際しても、この独占適応性のみをもって、本件商標に対し3条を適用するには躊躇されたはずであり、また、この点を究極的に理由付けするのであれば、商標法第4条第1項第7号を適用すべきであったが、それも躊躇せざるを得なかったのではなかろうか。即ち、何人も使用を欲することと、社会的に貢献しているとはいえ特定の者が使用を欲することとの間には、相当の相違があると考えられたからではなかろうか。つまり、もし「NPO」の登録が公序良俗に反するとするならば、「雑誌、新聞」に限らず、ありとあらゆる商品や役務を指定するものについても、同号が適用されるべきだからである。
因みに、第42類「工業所有権に関する手続の代理又は鑑定その他の事務,訴訟事件その他に関する法律事務,登記又は供託に関する手続の代理」を指定役務とする商標「NPO」が個人の名義で登録されている(登録第3013923号)。
なお、公共の財産として定着している言葉は私的独占には馴染まない、という考え方がある3
。最近の「二十四の瞳」問題や「母衣旗」事件4
がそうである。しかし、本件がこれらの事件と決定的に違うのは、「公共的利益を損なう結果に至ることを知りながら、利益を独占する意図があったか否か」という判断
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註3
本件商標に対するNPO等の商標法第3条第1項第6号の主張も、この点に関するものであった。
註4 東京高裁平成11年11月29日判決 平成10(行ケ)18
最高裁ホームページ
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要素が一切ない点である。勿論、「母衣旗」事件は、商標法第3条の問題ではなく、商標法第4条第1項第7号の問題であるが、「公共の財産」ということを論点とするのであれば、かかる判断要素に基づき判断すべきである。
ところで、「NPO」は、略語・略称として一般に使用されている欧文字3文字の組合せであるから、「Nonprofit
Organization」以外の略称としても使用されており、医学用語としても「nothing
by mouth (from the Latin Nil peros)」を意味する略語として使用されている。
また、「NPO」と同様、社会問題に関する言葉について、「雑誌、新聞」の登録商標として、以下のものがある。
・ 登録第4606225号「非営利法人」
・ 登録第4653855号「環境問題」
・ 登録第4850022号「地球新聞」
本異議決定の理由からすれば、これらの登録も無効とされるべき商標なのであろうか。決してそうではない。これらは、十分識別機能を有し、かつ、独占適応性のある登録商標である。
B 商標法第3条第1項第6号の適用性について
上記したとおり、筆者としては、本件商標は、指定商品「雑誌、新聞」については、十分なる自他商品識別力を有し、且つ、独占適応性を有する商標であって、商標法第3条第1項第3号に該当するものではない、と考えるが、それでは、商標法第3条第1項第6号を適用し得る余地があるだろうか。この点が次の問題である。
商標審査基準では、「地模様」のみからなるもの、標語(例えば、キャッチフレーズ)、例えば、「Net」「Gross」のように商慣習上、その商品や役務の数量等を表示する場合に用いられるもの、現元号をあらわす「平成」等は、商標法第3条第1項第6号に該当する、とされる。
勿論、本号に該当するものはこれらに限られないが、少なくとも、欧文字3文字「NPO」からなる本件商標が商標法第3条第1項第3号に該当しない以上、あえて6号に該当するとしなければならない格別の理由は存しない。また、本異議決定においても、6号に該当するとの積極的な理由付けは一切なされていない。唯一、「ベアー」事件がその根拠とも考えられる
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